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豊かな自然に囲まれ、総人口は600万人を数える大国。
多数の王宮機械技師を抱え、最先端の機械技術を誇る国として知られていた。

物語はそんな国の王宮機械技師の一人、トーマスを当主とする
クラークハイム家の日常から始まる…。


「ちょっとレミリオ!朝食の準備まだなのー!?」

ダイニングテーブルに何もないのを見て少女が大声をあげる。

「あっ、ゴメンねリィナ、もう少し待ってて、
もうすぐ洗濯物取り込むの終わるから…っ、うわあーっ!」

派手な音で階段を踏み外し、少年は転がり落ちてきた。


「…アンタ、また…っ!せっかく洗った洗濯物が台なしじゃない、もう!」

「…だって急にリィナが大きな声出すからさ…」

「何?言い訳する気?」

「う…いや、ゴメン。」

「…はぁ。まあいいわ、この片付けは私がやるから朝食お願いね。」

「うん!」


しぶしぶ洗濯物を洗い直す少女。

彼女はこの家の一人娘リィナ=クラークハイム。
今年で12歳になる。


慌てて朝食の準備をする少年。

彼はこの家の家事全般を任されているメイドのレミリオ。
彼はトーマスが人間そっくりに作ったロボットだ。

ただ若干の欠陥があるのか、何をやっても失敗ばかりだった。



「おはよう。」

「あ、ご主人さま!おはようございます!」

「はは、相変わらず朝から元気だなお前達は」

「お騒がせしてすみません…。」

「なに、気にすることはないさ。誰にだって苦手なことの
一つや二つあるもんだ。少しずつできることを増やしていけばいいんだよ。」

「はい…」

彼がこの家の主トーマス=クラークハイム。

その能力を評価され、若くして王宮機械技師となり、
様々な功績を残してきた。


「じゃ、朝食の準備もできたようだし、母さんの分を
部屋まで届けてやってくれるかい?」

「はい!」


家の二階、柔らかな日差しの差し込む部屋のベッドにいるのは
トーマスの妻ステラ。

「毎朝ありがとうレミリオ」

「いえ、僕の大事な仕事ですから!」

「ふふっ、今朝もやらかしてたみたいだけど、気にすることないわよ」

「ご主人さまにもそう言っていただきました…。
でも何だか僕、ちょっと自信がなくなってきてしまって。」

「あら、そうなの?」

「いつまでたっても家事をこなせるようにならないし、
やっぱり何か欠陥があるんじゃないかと…」

「あの人がそんなことを?」

「あ、いえ…、僕が自分でそうじゃないかって思うんです」

「…う〜ん、そうね。でもあなたはその辺のロボットなんか
比べものにならないくらいの大きな可能性を秘めているの。」

「可能性…?」

「あなたはロボットだけど成長することができる。
それは、今できないことも将来はできるようになる
可能性があるということなの」

「できないことが…できるようになる…。」

「そう。あなたは人間と同じように大きくなるのよ。
誰よりも優しくて真っ直ぐに育ってきた自慢の息子よ。
自信を持ちなさい。」

「…は、はいっ!」

「よし、その調子。じゃあ下に下りて皆と朝食をとっていらっしゃい。」

「はい!」


部屋を出ようとしたレミリオは足を止めた。

「どうしたの?」

「あの…」

「なあに?」

「…その…」

「何?言ってごらんなさい。」
ステラが微笑む。

「あ…の、一度だけでいいんです。
…お…お母さん、って呼んでもいいですか…?」

「まあ…。ふふっ、いいわよ。一度だけなんて言わず、
何度でも呼んでちょうだい。」

「じゃあ…。お…、お母…さん。」

「レミリオ。」

「あ…、えへへっ。じゃ…、じゃあ下に行ってきまーす!」

レミリオは照れながら慌てて一階へ下りていった。


「…あの子もあの子なりにいろいろと悩んでるのね…。」

「私はあとどれだけあの子に声をかけてあげられるのかしら…。」


ステラはもともと病弱な身体だった。

今もほとんど寝たきりで療養中。
家族も病気のことには触れないが、皆心配していた。



朝食も終わり、リィナが学校へ行く時間。

「じゃあ行ってきまーす!」

「おお、行ってらっしゃい。」

「行ってらっしゃいリィナ!」

リィナが出ていくのをトーマスとレミリオが見送る。



家の2階、ステラの部屋の窓からは街の方へ駆けていく
リィナの姿が見える。

リィナは街のプライマリースクールに通っており、
もうじき卒業を控えていた。

「あの子ももうそんな歳か…」

「大きくなったわよね。」

「君に似て美人になるぞ、あれは」

「まあ…、あなたったら。」


「ご主人さまと奥さま、本当に仲が良いですね♪」
ステラの朝食の皿を下げに来たレミリオが言う。

「こらこら、茶化すんじゃないぞレミリオ。」

「ふふっ。」


「来年はジュニアハイスクールへの入学か。」

「あなた、一つお願いがあるの。」

「うん?何だい?」

「レミリオもリィナと一緒に学校に行かせてあげたいの」

「お…、奥さま!?」
ステラの突然の提案に驚くレミリオ。

「この子にもっといろんな人と接する機会を
与えてあげた方が良いと思うのよ。」

「う〜ん…、確かに経験をさせるのはきっと
レミリオにとってはプラスになるんだろうけど、
君の世話ができなくなってしまうのはな…。」

「それは心配いらないわ。この間先生にも、
少しずつ身体を動かしていった方が良いって言われてるのよ?」

「…そうか、でも無理だけはしないことを約束してほしい。
私ももうじき大きな仕事に携わることになりそうだし、
そうなるとなかなか帰っても来られなくなってしまうからね。」

「分かったわ、約束します。」

「え…、じゃあ僕も春から学校に…?」

「えぇ、良かったわね。きっとたくさんお友達もできると思うわ。」

「あぁ…、信じられない。僕もリィナと学校に行けるんだ…。」

「でも約束だぞレミリオ。自分がロボットだってことは
絶対に喋らないこと。それからきちんとパワーはセーブすること。
お前には普通の力でも同年代の子供にとってはあまりにも強すぎるからな。」

「はい、気をつけます!
じゃあ僕は残りの家事を片付けてきますね!」

レミリオは嬉しそうに階段を駆け下りていった。


「…あの子にはできるだけのことをしてあげたいのよ。」

「…そうだな。」

レミリオの後姿を見つめる二人はどこか寂しそうな表情だった。